はじめに:地方の高校生に「稼げる力」を
石川県立小松高校内の「プログラミング研究会(P研)」を生徒たちと共に立ち上げ、その高校生たちにプログラミングを教え始めてから、あっという間に1年が経ちました。
地方の若者は、高校を卒業すると県外へ出ていくことが多くあります。だからこそ、高校時代の経験が「故郷を振り返るきっかけ」になるのではないかと私は考えています。そのためにも、地方であっても都会と遜色なく技術を学べる場を提供したいという強い思いがありました。
私としては、「プログラミング技術を身に着けて、学生のうちから自分でお金を稼いでしまう」くらいの逞しい生徒が出てきてもいいとさえ思っています。今回は、そんな彼らとの1年間の奮闘と、これからのプログラミング教育のあり方が大きく変化するであろう「ある確信」についてお話ししたいと思います。
前期の壁:「デジタルネイティブ」のリアルと立ちはだかる制限
指導を始めてまず直面したのが、生徒たちのITスキルの実態です。
彼らは1人1台スマートフォンを持ち、学校から支給されたChromebookも使っています。一見すると「デジタルネイティブ」に見えますが、いざ開発を始めようとすると、様々な壁にぶつかりました。
- アカウントのログイン情報を記録しておく知識が乏しく、毎回パスワードを再発行している。
- Googleの基本的なサービスに対する知識が不足している。
- プログラミング言語ごとの使用目的や性能を詳しく知る者はいない。
結局のところ、彼らは便利なアプリやサービスを享受する「消費者」にとどまっていたのです。さらに頭を悩ませたのが学校のデジタル環境でした。Chromebookには厳しいセキュリティ制限がかかっており、とても本格的な開発に使える代物ではありません。
「これでは誰もが挑戦する機会を持てない」と危機感を抱きつつも、私たちは身近な課題を解決するために、目標を「学校内モバイルオーダーシステムの開発」に設定し、少しずつ前に進み始めました。
転機:教えることで「自ら学ぶ」高校生たち
遅々として進まない状況に煩悶していた前期でしたが、夏休みに大きな転機が訪れます。
それが、「高校生が先生となって小学生に教えるプログラミングスクール」の開催です。高校生たちは、小学生に教えるためのカリキュラムを自ら考えなければなりません。人に伝えるためには、自分自身が深く理解しておく必要があります。
結果として、このアウトプット体験は大成功でした。保護者や学校の先生からも大きな反響を得られ、何より高校生自身が普段できない経験を心から楽しんでいました。人に教えるという責任感が、彼らを大きく成長させたのです。
後期の衝撃:AIの台頭が従来の学習を過去のものにした
後期に入ると、私の議員としての立場も活かしつつ働きかけを行い、ついにPCルームの使用が許可されました。1人1台の外付けモニター環境も整い、開発効率は劇的に向上しました。
そして、GitHub Copilotや各種AIツールを本格的に導入したことで、私はプログラミング教育のパラダイムシフトを目の当たりにすることになります。
秋に再び開催した小学生向けスクールでの出来事です。小学生のタイピング速度の高さと、AIとの対話によって難なくコードを生成していく姿を見て、私は衝撃を受けました。Microsoft MakeCodeなどのブロックを並べる学習とAIプログラミングの相性は抜群でした。
「今のままの教育方針、つまり『ブロックを並べるだけ』の学習はいずれ無駄になる」
そう痛感しました。「論理的思考を鍛えるため」という名目で、本格的なコードに踏み込まずにおもちゃで遊ばせているだけの現状の教育には、もはや意味がありません。
これからの時代に必要な「設計する知性」
AIの進化によって、コードの構文を一生懸命に暗記して書く必要はなくなりました。では、これからのプログラマーに求められるものは何でしょうか?
それは、「どのような機能が必要かを見極め、システム全体の仕組みを正しく頭の中で組み立て、設計図を用意する力」です。
コードはAIが書いてくれます。しかし、システム全体を把握して設計することは、実は非常に難しい作業です。これまでは「コードを書きながら全体像を把握する」というプロセスがありましたが、AIがそれをショートカットしてしまう今、私たちはどこでその「全体を把握する力」を育成すればいいのでしょうか?
私の結論はこうです。
「自らの手で一つのサービスを作り上げた経験がある者だけが、設計図を描けるようになる」。
社会に出てから空き時間で学ぶのではなく、時間のある学生時代にこそ、AIを使い倒し、何度も間違えながらシステムを作り上げる経験が何よりも重要になります。自分の頭の中のアイデアが、AIの力ですぐに形になる。こんな夢のような楽しみ方ができる時代なのですから、誰もがプログラミングを学びたくなるはずです。
おわりに:なぜ「部活動」なのか?
こうした「AIコーディング(バイブコーディング)前提」の新しい感覚を持った人材は、悲しいかな、今の地方にはほとんどいません。
だからこそ、私はこのプログラミング学習を「部活動」として定着させたいのです。先輩が後輩を指導するという部活動のシステムは、技術や文化を伝承する上で最も効率的だからです。
一定の年齢を超えてしまった年代の教師が教える構造のままでは、プログラミング学習の未来はありません。先輩から後輩へ、最先端の「設計する知性」が代々語り継がれていく。全国でも類を見ないそんな仕組みをこの小松市で作ることが、地方自治体を前に進める大きな力になると確信しています。
校内モバイルオーダーの年内完成は叶いませんでしたが、ゴールはもう目の前です。これからも彼らの挑戦を全力でサポートし、この地方から逞しい若者たちが飛び立っていく日を楽しみにしています。