2026年5月13日〜15日の3日間にわたり、東京ビッグサイトで開催された「自治体・公共Week 2026」の視察に行ってきました。
今年の熱気はとにかく凄まじいものでした。少子高齢化、人手不足、財政難という、いわゆる「自治体の三重苦」が想定以上のスピードで押し寄せる中、国も地方も「単なるデジタル化(DX)を超えた、業務や組織そのものの変革(AX:AIトランスフォーメーション)」へ完全に舵を切った印象です。
今回は、私が現地で厳選して聴講した12のセミナーについて、現場のリアルな課題と未来へのヒントを3日間の時系列順に沿って、AIを活用し1つのレポートとしてお届けします!
【5月13日:1日目】テクノロジーの現場実装と首長の経営哲学
初日は、中山間地域が直面する過酷な現実に先端技術で挑む事例から、国が描く壮大なデジタル主権戦略、出来栄えにこだわる首長の「経営哲学」まで、濃密なセッションからスタートしました。
① 10:00〜10:50 『テクノロジーで挑む鳥獣対策』
登壇者:小林 勇介 氏(福島県昭和村 総務課企画創生係長)/ 田仲 秀行 氏(NTTドコモビジネス(株))
人口約1,030人、高齢化率57.57%の中山間地域である福島県昭和村。2025年にクマの出没・捕獲数が過去10年で異常な件数(捕獲95頭)に達し、人身被害も発生するという深刻な危機に直面しました。これに対し、村は国防レベルの高性能ドローン「Skydio X10」を導入して対策に乗り出しました。
搭載されたサーマルカメラの威力は絶大で、夜間でも熱源をくっきりと検知し、動物たちが共有している「獣道」を鮮明に可視化します。これが猟友会が罠を設置する際の重要な基準となっています。現在は、撮影映像からクマを正確に認識させる「独自のドローン学習モデル」を作成し、職員の目視確認の負荷を激減させる実証が進められています。
ここがポイント!:このドローンを国や県の補助金に頼らず、あえて「村の単費」で購入したという決断です。補助金をもらうと用途が厳格に制限され、山岳遭難捜索から鳥獣対策への柔軟な転用などができなくなるため、あえて村の予算で買うことで、自分たちの課題に素早く立ち向かうための「主権」を自ら確保したのです。
② 11:30〜12:20 『日本のデジタル推進政策』
講師:松本 尚 氏(デジタル大臣)
マイナンバーカードが1億枚を突破し、強力な本人確認書類として機能する一方、公金受取口座の紐づけが約半数にとどまる点や、電子カルテの普及率(約45%)、自治体システムの標準化の遅れなど、公共DXの耳の痛い課題が赤裸々に語られました。
政府が18万人の国家公務員向けに内製生成AI「源内」を導入し、国会答弁作成や資料準備の時間を大幅に削減する実証が進む中、松本大臣は米中2強による「デジタル植民地化」への強い危機感を表明。日本独自の言語文化や価値観を理解するAIノウハウを武器に、クラウドデータセンターの国産化を進め、グローバルサウスと連携した「第3極(AI主権)」を目指していくという壮大な国家戦略に圧倒されました。
④ 15:30〜16:20 『AI活用と人財育成』
講師:池田 宜永 氏(宮崎県都城市長)
日本DX大賞3連覇・初の殿堂入りを果たした都城市。池田市長は、ヒト・モノ・カネを最大限に活用し、市民の幸福と市の発展という利益の最大化を目指す「自治体経営」を提唱。民間企業で当たり前の経営感覚を行政に持ち込み、「結果が出なくても潰れない役所のスタンスが問題であり、その損失はすべて市民にいく」という強い結果へのこだわりを語りました。
その核となるのが、挨拶や接遇など「当たり前を当たり前にできる力」を養う「都城フィロソフィ」による人財育成です。この徹底したアナログの意識改革があるからこそ、公平・平等の呪縛を破る「肉と焼酎」へのふるさと納税一点集中戦略による日本一獲得、手厚い子育て・移住支援による13年ぶりの人口増、そして全国100以上の自治体が利用する生成AI「zevo(ゼボ)」の開発といったデジタルの華々しい成果が実っているのだと痛感させられました。
【5月14日:2日目】AIの現場浸透と次世代都市インフラの姿
2日目は、AIを現場の職員や都市インフラにいかに落とし込んでいくか、より具体的で実践的なアプローチが数多く示されました。
⑤ 10:00〜10:50 『自治体におけるAI活用のススメ』
登壇者:浦上 哲朗 氏(総務省 市町村課長)/ 市瀬 英夫 氏(大阪府 CDO)/ 碓井 洋寿 氏(北海道当別町 主幹)ほか
AIの活用において、現場ならではの「リアルな壁」とそれを乗り越える泥臭い工夫が語られたセッションです。人口約1.5万人の北海道当別町では、早期に生成AIを導入したものの、当初は利用状況が二極化して伸び悩みました。原因を探ると、「プロンプトをしっかり書かなければならない」という指導自体が職員のハードルになっていたことに気づいたそうです。
そこで当別町は、「プロンプトにこだわるな、AIと普通の言葉で会話してみよう」と意識改革を行い、なんと52回もの地道な勉強会を重ねて利用を浸透させました。一方、大阪府の市瀬CDOからは、民間企業との「AIエージェントコンソーシアム」の設立や、現場の課題を抽出してAIソリューションを適用できる内部人材(FDE)の育成について語られ、広域自治体としての底上げ戦略が示されました。AI導入の本質は人員削減ではなく、手続きの自動化によって生み出された時間を、人にしかできない「温かい対人サービス」にシフトさせることだという共通認識に深く共感しました。
⑥ 11:50〜12:40 『地域防災に対する政府指針』
講師:河合 宏一 氏(内閣府 大臣官房審議官(防災担当))
2026年秋(11月予定)の発足に向けてカウントダウンが始まっている「防災庁」の最新動向が示されました。従来の体制から人員が352名規模へと一気に拡充され、予算も抜本的に強化されています。防災庁は、内閣に直属する独立した組織として、各省の大臣に対して「勧告権」という強力な司令塔機能を持つことになります。
今回の法改正では、災害対策基本法の基本理念に「科学的なリスク評価に基づく事前防災(シミュレーションの推進)」と「被災者の良好な生活環境の確保(TKB等)」が追加されました。国が新設した「防災力強化総合交付金(35億円)」を活用し、地域レベルでの定量的弱部のあぶり出しや、広域連携を前提としたトイレカー・キッチンカーなどの危機管理投資を国として強力に後押ししていく方針が示されました。
⑦ 12:45〜13:45 『選挙こそDX~選挙運営を変革するネットワークとその展望~』
講師:三木 庸彰 氏((株)インターネットイニシアティブ)
2016年の法改正で設置可能になった「共通投票所」ですが、全国的な普及は進んでいません。その最大の壁が「二重投票」を防ぐためのネットワーク構築コストにありました。専用線を引くには高額なコストや長期契約(1年縛りなど)が必要で、さらに数ヶ月の納期がかかるため、突発的な解散選挙に対応できないという実務上の大きな課題があったのです。
IIJが開発した「選挙ネットワークソリューション」は、ドコモとKDDIの両方に対応するマルチキャリアSIMと、通信断を防ぐ「アクティブ・アクティブ通信」対応ルーターを活用。閉域モバイル網からガバメントクラウド上のシステムへダイレクトにセキュア接続します。特筆すべきは、専用線とは異なり「選挙期間中のみ環境を提供・課金する」という仕組みを構築し、自治体のコスト負担を大幅に削減した点です。横浜市で行われた約50箇所の投票所での実証実験でも通信トラブルなく稼働に成功しており、将来のインターネット投票を見据えた極めて合理的で実務的なインフラ基盤だと感じました。
⑧ 14:00〜15:00 『議会改革度1位!議会から全庁に広がる、20年にわたるDXの歴史と成果』
講師:岩崎 弘宜 氏(茨城県取手市役所 総務次長 兼 情報管理課長)
早稲田大学の議会改革度調査で連続1位に輝く取手市。そのDXの歴史はなんと20年前に遡ります。平成17年当時、カセットテープの録音を足踏みペダルで再生しながら手打ちで議事録を作成しており、職員1人当たりの時間外勤務が約1,355時間に及んでいました。深夜や土日出勤が常態化する中、事態を打開するために「局職員を1人減らしてでもシステムを入れてほしい」という大英断を下し、平成18年にAI音声認識(AmiVoice)を導入しました。結果、残業時間は約60%削減され、年間約320万円かかっていた会議録の外注費も全廃して自前での作成に切り替えました。
全庁展開を成功させた秘訣として紹介されたのが「取り残し作戦」です。一斉に無駄な説明会を開いて押し付けるのではなく、業務効率化への意識が高く、やる気のある部署から優先的にシステムを導入。その圧倒的な成果を見た周囲の部署が「自分たちも使いたい」と自発的に追随するように仕向けるアプローチです。現在では生成AIも積極的に組み込み、過去の議事録や計画書を読み込ませてワンクリックで答弁のドラフトを作成するシステムや、議事録から指定文字数へ自動要約して「議会だより」の作成を支援する仕組みなど、現場を知り尽くした自治体職員ならではの実務的な工夫が随所に光っていました。
⑨ 15:30〜16:20 『静岡市の目指す次世代のまちづくり』
講師:難波 喬司 氏(静岡県静岡市長)
政令指定都市の中で最も高い人口減少率を記録している静岡市。難波市長はその原因がよく言われる「大学進学時の流出」ではなく(実は大学進学時の流出入はほぼゼロ)、実際には15歳から40歳までの子どもを産み育てる若い世代の人口がごっそりと抜け落ちている構造的問題にあると「現実直視」を促しました。この要因は、長年にわたり産業立地用地を確保してこなかったため企業の新規立地がなく、若年層への新規雇用力が弱かったことにあります。
この延長線上のまちづくりを脱却するため、清水港周辺を舞台に「超スマート・ガーデン・ポートシティ清水」を掲げ、最先端の知(超スマート)と類まれなる美しい景観(ガーデン)を融合させたプロジェクトが推進されています。駿河湾の深海地形を活かした海洋ドローン(AUV・ROV)の研究開発拠点「Fuji-Suruga BX PARC 構想」や、三保飛行場を活用した「空飛ぶクルマ」の実証、さらにJR東静岡駅北口の市有地に300億円を投資して2030年に開業するアリーナ(多目的集客施設)の整備などが示されました。アリーナは30年間で1500億円の市民所得を創出する「稼ぐ箱」であり、これらを契機に社会全体の力を巻き込む「共創」によって地域の価値を押し上げようとする、高度な行政経営の姿勢が明確に示された内容でした。
【5月15日:最終日】避難所運営の現実と公共セクターの未来
最終日は、日本の避難所が抱える構造的な欠陥への厳しい指摘から、若手首長たちの本音の対談、そしてAIがもたらす行政のグランドデザインまで、未来の公共OSを再定義する議論が行われました。
⑩ 10:00〜10:50 『実践知から学ぶ避難所運営』
講師:水谷 嘉浩 氏((一社)避難所・避難生活学会 代表理事/市民保護研究所 所長)
東日本大震災や能登半島地震などの大災害を経験しても、日本の避難所は100年前の「体育館での雑魚寝」から本質的に変わっていません。能登半島地震では巨額の国費と数十万人の支援者が投入されたにもかかわらず、災害関連死が500人を超えており、水谷氏は「日本の防災は災害に歯が立っていない」と鋭く指摘されました。最大の課題は、住民を直接支援する責務が被災した市町村に集中する「市町村総合防災」の仕組みです。職員自身が被災者でありながら支援を担うという無理な構造であり、国の「プッシュ型支援」も最終的には市町村が分配を担う「後はよろしくね方式」になって現場をパンクさせています。
これを防ぐためには、日常に近い環境である「TKB(トイレ、キッチン、ベッド)」を48時間以内に提供することが不可欠です。イタリアでは発災6時間以内にシャワー付きのコンテナトイレが設置され、プロの料理人による温かい食事が提供されます。また、ベッドは48時間後により快適なものに交換され、避難所運営は近隣の州の支援部隊が行うため、被災自治体の職員は17時で帰宅して自身の生活再建にあたることができます。水谷氏は、250人を収容できる「TKBユニット(約5億円)」を全国に500ユニット分散配備し、「逐次投入」から「早期の圧倒的投入」へと統合運用・訓練を繰り返すことこそが、次なる大災害で命を守る鍵となると強く主張されました。
⑪ 11:50〜12:40 『【若手首長対談】次世代を見据えた行政マネジメント』
登壇者:山田 裕一 氏(宮城県白石市長)/ 桑原 悠 氏(新潟県津南町長)/ 森田 浩司 氏(奈良県三宅町長)/ 吉田 雄人 氏(元横須賀市長)
30代で首長に就任した若手リーダーたちが、行政の「住民満足度の最大化」と民間の「利益の最大化」という言語や時間軸のズレを理解した上で、いかに組織を動かし民間と共創しているかのリアルな実態が語られました。
官民連携の実践として、三宅町では民間複業人材を登用するプラットフォームの導入や、保育所での「おむつのサブスクリプション」を導入して全国へ波及させました。また、白石市では年間10億円以上の赤字を出していた公立病院に指定管理者制度(公設民営化)を導入。赤字補填を行わない契約にした結果、民間のノウハウで病床稼働率が90%を超え、救急車の受け入れも倍増するなど、民間の経営力の高さを証明しました。予算不足の際でも、補助金や企業版ふるさと納税などの多様な財源を組み合わせ、「どのような社会を作りたいか」というビジョンを共有し、オンラインだけで済ませず直接現地に足を運ぶ熱意がある企業とは非常に組みやすいと語られました。
⑫ 13:40〜14:30 『生成AI活用で挑む公共OS改革』
登壇者:山口 真吾 氏(デジタル庁)/ 福田 直 氏(総務省)/ 平田 拓也 氏(苫小牧市)/ 半矢 竜幸 氏(兵庫県)/ 横窪 安奈 氏(東京大学准教授)/ 吉田 真貴子 氏(JCC)
国(デジタル庁・総務省)が描く「行政実務に特化した国産AIの育成」や「システムやUIのオープンソース化」というマクロなインフラ整備と、地方自治体(兵庫県・苫小牧市)が直面する「職員のAI格差」や「心理的ハードルの払拭」というミクロな現場の課題が交差する、非常に解像度の高いセッションでした。
現場では「どこまでのデータをAIに入れていいか分からない」という不安が普及の壁になっていますが、これに対し、国が国産AIの評価基準を示して心理的安全性を図ることや、苫小牧市の「ガイドラインを読み、理解度テストで満点を取らなければアカウントを付与しない」といったルール作り、精度を高める週1回の勉強会「ゆるデジ」を開催して「楽しくなければDXじゃない」と草の根で普及させる泥臭いアプローチの重要性が共有されました。AIの導入自体をゴールとするのではない。AIを活用して行政の縦割りを壊し、新たな「集合知」を生み出すための「働き方のOSアップデート」(公務員自身の働き方やマインドの変革)こそが本質であるという強いメッセージが伝わってきました。
総括:これからの自治体経営と民間企業へのヒント
3日間の激しいインプットを通じて見えてきたのは、「AIやデジタル技術(DX)は、冷たい効率化のためにあるのではなく、人間にしかできない『温かい地域社会のケアや対話』の時間を捻出するための究極の手段である」という共通の未来像です。
そして、これから自治体との共創やビジネスを志す民間企業にとって、単なるプロダクトの売込み(B2G)の姿勢はもはや通用しません。自治体がお金も人もない中で、どのような未来(ビジョン)を描き、住民一人ひとりに寄り添おうとしているのか。その現場の論理を理解し、現地に直接足を運び、共にリスクを背負って伴走できるパートナーこそが、これからの新時代を共に切り拓いていくのだと強く感じた視察でした。
私も今回の視察で得た全国の事例を糧に、小松市への働きかけ方に具体性を持たせ、市の発展に寄与してまいります!




